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伊坂幸太郎の文庫「魔王」の感想。「大きな流れに立ち向かうことの意味」を考えさせられる

      2016/03/29  

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photo credit: along Lake Twenty Two trail via photopin (license)

伊坂幸太郎の「魔王」の感想です。

歴代の伊坂作品の中でも異色に分類されて好き嫌いが分かれる作品ですが、わたしは好きな方ですよ。
とはいっても中盤くらいの順位ですが笑
(参考)わたしが好きな伊坂作品のランキング⇒伊坂幸太郎の文庫化されてる全24作品+4をおすすめ順にランキング形式で紹介します!

「あらすじ」はこんな感じ。

会社員の安藤は弟の潤也と二人で暮らしていた。自分が念じれば、それを相手が必ず口に出すことに偶然気がついた安藤は、その能力を携えて、一人の男に近づいていった。五年後の潤也の姿を描いた「呼吸」とともに綴られる、何気ない日常生活に流されることの危うさ。新たなる小説の可能性を追求した物語。

「日常生活に流されることの危うさ」とありますが、「魔王」の本質は「立ち向かうことの危うさ」だと自分は思います。
まぁこの辺は作品を読んでみてください。

では、「魔王」の感想です!

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ミステリーではない

「魔王」はミステリー作品ではありません。
ミステリー要素がないので、いつもの伊坂幸太郎節といいますか、伏線を回収して終わるようなラストではなく、
見る人からみたら中途半端な終わり方だなと感じるかもしれません。

また、退屈な地の文が多くて読み進めるのがしんどいって人もいます。
キャラは立っていてトークは面白いものの、会話を表に出すというよりも主人公の安藤が頭の中で考えていることをクドクドと説明するための文の方が多いですね。
その考察が面白ければいいですが、そんなに面白くもない・・・。

といったことで、いつもの伊坂幸太郎の作品が好きな人にとっては退屈な作品だと思います。

主人公の安藤が自分に似ていて怖い・・・

主人公の安藤は、悲観的で、物事を無駄に(悲観的な方向へ)考えすぎて、さらには、それに気づいているのは自分だけだと思っている、といったネットの言葉でいうと中二病的な人です。
大衆が流されるのを怖がるというか気持ち悪いと思ってしまうようなタイプ。

流行とか、みんながやっているからみたいなことが嫌いな人だと思います(この辺は読んでいて自分のイメージですが笑)。

で、安藤のキャラクターを表すエピソードがいくつかあるんですけど、そのどれもが似てるなと思ってしまって、怖くなります・・・。

例えば、

喫茶店で隣に座った、風呂に入ってなく身なりも気にしないようなヨボヨボの爺さんが座ったときに、
「あれは自分の未来かもしれない」と勝手に悲観的になったり、

ライブ会場で一体となっている観客の異様さに恐怖を覚える

など、

無駄に感性が強いというか、頭で考えすぎるタイプとでもいいましょうか。
「似ているなー・・・」と思いながら読んでいました。

主人公と考え方が似ているからスラスラ読めましたし、自分にとっては退屈でっはなかったです。

ただ、そんな主人公の最後のシーンを見てしまうと、素直に作品を楽しめませんが・・・。

何も解決しないまま終わる

多くのレビューに「途中で終わったような感じがします」とあります。
たしかにその通り。

ミステリー的ではないので、明確な回答がある作品ではないでしょうが、それでも何かしらの「答え」がほしいなって思いました。
ふむふむ、ここからどうなるんだろう、・・・えっ、終わっちゃったよ!みたいな感じ。

個人が立ち向かうことの意味

社会というものは何となく流れがあります。
その流れを作っているのは紛れもないわたしたちなんですけど、普段の生活の中では特には感じません。
感じないままに流れていっている。

政治的なところでいえば、2009年の政権交代は、流れ(ムード)以外の何物でもなかったなと思います。
当時、自民党はダメ、民主党は良いこと言っている!という「流れ」が確実にできていました。

案の定、政権交代がおきました。

そこでわたしが声をあげていたところで果たして結果は変わっていたでしょうか?
おそらく何も変わらないし、声を大きくすればするほど冷ややかな目で見られたはず。

じゃあ、声をあげることの意味ってなんなのか?

日本では、出る杭は打たれます。

個人が大きな社会の流れに立ち向かうことの意味を考えさせられる作品でした。
(話を重たくしてすいません・・・。)

※ちなみに魔王は2005年の小泉首相の郵政民営化時の作品です。どちらかと言うと、小泉自民党を取り巻く社会のムードからインスパイアーされた作品かもしれません。

追記

伊坂さん自身は、こういう解釈をされることを残念がってるみたいで。
魔王読むと、イメージしてしまいがちですが、伊坂さんはそういう意図はないようで・・・。

発表後は、恐れていた通り、政治的なことを書いた、とあちこちで言われましたね。単行本が出た時は、ちょうど小泉総理の郵政民営化選挙があって、「それをモデルにした」と言われて、執筆はそれよりも前なのに、と悔しかった覚えがあります。最近は、民主党が選挙で圧勝したことと重ね合わされたりして(笑)。

こういった裏話は、エッセイ集「3652」を読むとたくさんありますので、気になる方(コアな伊坂ファン)はぜひ。

魔王の「その後」を知りたければ「モダンタイムス」を読むべし

中途半端に終わった感が否めない魔王ですが、一応続編があって、「モダンタイムス」という伊坂幸太郎史上、最もボリュームのある作品です。
(参考)感想書いてます。⇒伊坂幸太郎著「モダンタイムス」の感想(書評)。久しぶりに読んだら超超超おもしろかった!!!「検索から監視が始まる。」

「モダンタイムス」の世界は「魔王」の100年後という設定で、安藤の弟「純也」や「しおりちゃん」、そして、「犬養」などの名前に出会うことができます。
出会えるといっても軽くです。物語の筋に大きく絡んでくることはありません。

が、「魔王」の世界で主人公の安藤が命を懸けて対決した犬養はどうなったのか?
「純也」や「しおりちゃん」のその後の生活は?

この辺りは、サラっと知ることができます。
彼らが気になる方は読んでみるといいでしょう。作品としてもめちゃくちゃ面白いです。

まとめ

「魔王」を読んだ感想でした。
伊坂作品の中でも異質ともいえる作品ですが、わたしは楽しかったです。
(主人公と考え方が似ていて感情移入できる部分が多かったのもあると思います。)

みならんも言われている通り、ミステリー要素はなく中途半端な終わり方っていうのは、否めません。
これぞ伊坂って作品を楽しみたければ、ラッシュライフや陽気なギャングシリーズがいいと思いますよ。

ちょっと変わったテイストの伊坂幸太郎を楽しみたければ「魔王」はおすすめですよ。