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伊坂幸太郎「ラッシュライフ」の感想。異なる5人が紡ぐ群像劇!伏線回収の爽快感

     

19029506192_43bd20ed02photo credit: 073-P1060914 via photopin (license)

伊坂幸太郎のラッシュライフの感想。伊坂作品2作目にして、今の作品を合わせても一番構想が練られた作品なんじゃないかなと思います。

異なる5人の人生が紡ぐ群像劇で、作中に出てくる「今日の私の一日が、別の人の次の一日に繋がる」の言葉通り、ふとした瞬間につながっているという安心感を与えてくれます。

しっかりとしたミステリーな作りになっているし、結構複雑なので1回読むだけじゃなく、2回3回と久しぶりに読んでみたりすると新たな発見もあるといった作品でもあります。(それだけ複雑でもある。)それでは、ラッシュライフの感想をどうぞ!

(※ネタバレなし)

物語のラストシーンの爽快感

物語はまず5つの別々のストーリーから始まり、全く関係のないように見えていたそれぞれのストーリーが、どこかのタイミングでちょっとずつ関わり合います。どこかちぐはぐで不思議な印象を持ちながら読み進めていくと、最後の最後、5つのストーリーが1つに繋がっていく。

物語に散りばめられた伏線を、ラストシーンで一気に回収していくのは伊坂作品ならではの爽快感。

「あ、あのときのあれ!?」「え、ここも!?」と読み流していた場面が後々重要な役目を果たすこともあり、どこでどのように繋がっていたのかネタばらしされても、もう1度読み直さないと理解ができないほど複雑でもあります。

そのように全く別の物語に見えていたからこそ、バラバラだったピースがピターッとはまる気持ち良さを味わうことができました。それぞれ独立していた話を1つに集約する構成は見事です。

個性豊かな登場人物たちの群集劇

1番の見所はラストシーンですが、それまでのストーリーも特徴があって読み応えがあります。5つの物語が並行して進む中、どのストーリーもそれぞれ面白みがあるのは、登場人物の個性が際立っているからですね。

ストーリーが5つあるので登場人物は比較的多く、それぞれの登場回数や頻度は他の長編小説と比べ少ないのですが、インパクトの強い人物が多いと感じました。

5人の視点で描かれているのですが、

  • 泥棒を生業(なりわい)とする男
  • 新興宗教をハマる青年
  • 人を見下す女性カウンセラー(不倫中)
  • 職も家族も失った中年男性
  • 拝金主義な画廊

といった、一人ひとりの物語も面白そうなキャラ設定です。

こんな人生で絶対に接点を持たなそうな人たちが、実はある点では重なりあっているのが面白いんですよね。

泥棒の黒澤はこの作品以降も度々出てくる人気キャラクターですし、わたしなんかは悲壮感漂いまくりな中年男性にめっちゃ感情移入してました笑

ただ物語をすすめる用にいるわけじゃなくそれぞれの話が面白いから、ぐいぐい引き込まれるのでテンポよく読み進められます。
だらけることのないスピード感のある物語は、さすが伊坂幸太郎だなあと思わされました。

人生の偶然性と必然性

この作品を読み終わった直後、1番に感じるのは爽快感。そして、その後じわじわと心に響く感情が湧き上がってきます。

どちらかというと、爽快感は感情の波があり、読み終わった直後がピーク。しかし、このじわじわした感情は大きな波はありませんが、読後も腹にたまっている感覚があります。

この物語は5つの別々のストーリーから成り立っています。それぞれ別々の人生を歩んでいるように見えますが、実はふとした瞬間に、知らない間に他人の人生に影響を及ぼしていたり、及ぼされていたりします。

色々な形で交じり合いながらそれぞれの結末を迎え、またそれぞれの人生を歩んでいくのですが、実世界に置き換えることもできると感じるのです。(もちろん、この物語のような強烈な出来事は少ないかもしれませんが。)

わたしたちはリアルな世界でもインターネットの世界でも、他人と共存しながら生活しています。完全に独立して1人で生きていくことは、今の時代極めて困難。

この事実が良いか悪いかは別として、他人との関わり合いが避けられない今、自分もどこかで誰かと影響を及ぼしあいながら生きているんだと、改めて感じました。日本だけでも大勢の人がいて、その人数と比べると自分の知っている人や仲の良い人はごくわずかです。

ふとした繋がりってロマンチック

でも、この物語のように顔も名前も知らない誰かと、知らない間に何らかの形で関わりあっているんじゃないか、と思うのです。今生きている世界だけが全てじゃないんだ、目に見えているものだけが全てじゃないんだと、なんだかロマンチックな気分にもなりました。

この物語では、登場人物たちがそれぞれの都合で行動した結果、他人の人生に良くも悪くも影響を与えています。影響を与えられた側からすると、それは偶然なのか必然なのか。どちらかだけだと言い切ることはできず、様々な要因が絡んでいるように見えました。

わたしは、何かが起こったときや何かを始めるとき、偶然性と必然性の両方が作用していると考えるようにしています。偶然だけでも必然だけでもなく、両方がうまくマッチしたときに物事が1番スムーズに進むと思っています。偶然だけに頼っていると少し心もとないし、かといって必然だけを信じていると目に見えるものだけを追い求めてしまうことに。

物事は様々な側面を持っていて、一方向から断定することは難しいと思います。色んな事情や背景、思惑など、様々な要因が絡み合って成り立っているから。自分の力ではどうにもならないこともあると思います。

でも、それを一種のストーリーだと思って捉えることができたら、もっと色んなことを楽しめるようになるのではないでしょうか。これだけたくさんの人が生活している世の中、目に見えない関わり合いを想像することで、いつもの景色もちょっと違って見えるんじゃないかなと思います。目の前のことでいっぱいいっぱいのとき、変化のない日々に退屈しているときにこの作品を読むと、何かが変わるかもしれません。

伊坂幸太郎の魅力が詰まった一冊

伊坂幸太郎作品の魅力の1つに、カラッと湿り気のない作風ながらも、直接心に響くメッセージがあるところ。

エンタメ要素の強い作品が多いですが、登場人物の何気ない一言にハッとさせられることも少なくありません。

そして、そのメッセージは決して小説の中だけで有効なものでなく、心にダイレクトに響いてくるのです。

普段感じてはいるけどうまく言葉にできない感情を代弁してくれたり、著者独特の視点から語ってくれたり。小説の中には、その世界とわたしたちの住む実世界とがかけ離れていて、間接的なメッセージが多い作品もあります。

一方伊坂作品は、もちろん小説なので設定やストーリーは現実離れしているものも多いですが、直接的なメッセージを届けてくれます。どちらが良いというわけではないのですが、個人的には伊坂作品の直接的なメッセージが潔くて心地よいと感じます。

1つの作品に幾つかそんな言葉が散りばめられていて、もちろんこの作品にも名言がたくさんありました。

また、伊坂作品には重厚感やドロドロした人間模様はあまり見られません。軽いと言われればその通りかもしれませんが、裏を返せば活字な苦手な人も読みやすいとも言えます。
ライトな読み心地とエンタメ要素、伊坂幸太郎の物語に引き込む力で、小説が苦手な人にも良いのではと思います。

何気ない日常の中でも、誰かが自分の人生に関わっていて、自分も誰かの人生に関わっているかもしれない。そんな風に、日々の生活にちょっとしたロマンを感じさせてくれるこの作品。
個性豊かで人間味の強い登場人物、スピード感のある展開、張り巡らされた伏線、ラストシーンの爽快感と、伊坂幸太郎の面白さがぎっしり詰まっています。