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伊坂幸太郎「陽気なギャングが地球を回す」の感想。個性際立つ4人の銀行強盗!

     

6124369187_b523bdd44ephoto credit: cali.org bank robbers via photopin (license)

伊坂幸太郎の中で最も読みやすくて楽しい作品が本作かなと思います。

4人の個性的すぎる銀行強盗の日常とユーモア溢れる会話は、疲れることなくずっと読んでられます。

伊坂幸太郎が好きというよりは、「小説をはじめて読むけど簡単で読みやすいのないかな」という方におすすめしたい1冊です!

たぶん、小説って楽しんだなってニヤニヤしながら読み進められると思いますよ!
それでは、「陽気なギャングが地球を回す」をどうぞ!

ユーモアたっぷりの銀行強盗

この物語の主人公は4人組の銀行強盗。
銀行強盗の物語ってどんな感じかなあ、とっつきづらいのかなあと思いながら読み始めたらびっくり!
全体的にタッチが軽く主人公たちが皆飄々としているような、こんなユーモアたっぷりに銀行強盗を描いているとは思ってもいませんでした。
銀行強盗に入る直前「ロマンはどこだ」なんて呟くのが良い例で、らしくないユーモアさがあります。
併せてお金を奪っている間、強盗犯が来店客を相手に演説をし始めるのでかなりのインパクト。
しかも、その内容が中身のあるようなないような、でも思わず聞き入ってしまう不思議な感覚に陥ります。
大胆かつ鮮やかに強盗を行うシーンは、その場に居合わせた客のようについつい見入ってしまって、清々しさまで感じてしまいました。
サスペンスの中にもそんなユーモアさがたっぷりなので、銀行強盗という物騒な設定も大いに楽しめます。
むしろ、銀行強盗とユーモアという対極にあるような要素を組み合わせているからこそ、面白さが引き立っているのかもしれません。

個性際立つ4人組

この物語のユーモアさをより引き立てているのが、4人組それぞれの個性。
彼らの際立った個性なしにこの物語は成立しないのでは、と個人的に感じます。

1人目、リーダー的存在である成瀬は頭の切れる嘘を見抜く名人。
物語冒頭、警察官のふりをしていた見知らぬ若者の嘘を「人は外見に騙される」と断言し、瞬時に見抜くほどです。
この能力は物語の至る所で力を発揮し、強盗中でさえもその力を使って着実に仕事をこなす落ち着きぶり。
何が起きても慌てず動じず、達観という言葉がよく似合います。
2人目は演説の達人、響野。
「ロマンはどこだ」と言って銀行強盗に入るのがお約束の彼は、口から生まれてきたようなキャラクター。
強盗中大演説を繰り広げるのは、彼にとっては容易いことのようです。
お調子者で嘘ばかり言うけれど、時には核心をつくようなことを言う、なんだか憎めない存在。
「感じたことを全部わざわざ口に出す必要はないんだよ。誰もが心の中で思っているだけならば、世界は平和だ。」、「退屈は人を発狂させるからな。」など、名言も飛び出します。
3人目は紅一点の雪子、正確な体内時計を持つという特殊体質の持ち主。
一見すると共通点がなさそうでバラバラに見える男性3人のバランスを取っているように感じました。
ぱっと見人間味が薄そうで、いつも冷静沈着で正確に任務を遂行するのですが、今回彼女があるいざこざに巻き込まれたことが原因で事件が起こり、話が進んでいきます。
最後は4人の中で一番若い青年、久遠。
スリの名人で、物語中もありとあらゆる場面でスリを働きます。
それだけ聞くと悪質極まりない若者、と思われるかもしれませんが、実際はとても純粋で大の動物好き。
「人間に柴犬が殺されるところを見るくらいなら、柴犬に噛み殺される人間を見ているほうがよっぽどいい。」とまで言うほど。
いつも淡々としていて掴み所がなさそうだけど、実は一本筋が通っている、独特な雰囲気を醸し出す青年です。

銀行強盗をするなんてどんなキャラクターなんだろうと思ったら、このように一見銀行強盗とは思えないような、かつそれぞれに異なる個性を持っています。
その辺にいるんじゃないかと、むしろ親近感すら覚えました。

掛け合いが絶妙

作戦会議中の、何気ないやり取り。
久遠「写真を見ただけでよくそこまで分かるね。さすが響野さんだ。」
響野「私は何でも分かるよ。今度の現金輸送車の襲撃だってこの男が主犯じゃないさ。」
成瀬「それは俺も同感だ。」
久遠「成瀬さんが言うと本当っぽいなあ。」
響野「私が嘘しか言わないみたいじゃないか。」

彼らはいつもと同じように強盗を終えて逃走していた時、現金輸送車襲撃犯にお金を横取りされてしまいました。
偶然狙われたわけではなく、実は雪子が巻き込まれているいざこざと関係があるのですが、他の3人はそうとも知らず現金輸送車襲撃犯を追うことを決めます。
その作戦を練っている1シーンがこちら。
こんな皮肉交じりの軽快なやりとりは日常茶飯事で、ついクスッと笑ってしまいそうになります。
特別高尚な会話をしているわけでもなく、彼らにとっては本当に何気ない日常なんだと思いますが、テンポの良い漫才を見ているかのような小気味よさを覚えます。
いつも会話の中に4人それぞれの個性がにじみ出ていて、成瀬、響野、雪子、久遠、どんな組み合わせでも各々の個性をつぶすことなく会話が成り立つのもまた面白いところ。
はたから見ていると面白く写るけど、本人達はいたって真面目なところがより面白さを引き立てているのかもしれません。
そんな調子で話が進んでいくので、シリアスな場面でもなぜかワクワクしてしまうくらい、最初から最後までテンポ良く読むことができました。
会話を聞いているだけで面白いのも本書の魅力です。

スピード感のあるストーリー展開と一気に読み上げる楽しさ

本書の構成は、成瀬、響野、雪子、久遠と場面ごとに目線が入れ替わっていきます。
それを何度も繰り返すので、その度に見える風景が変わって刺激がありました。
単調なシーンが続くとどうしても途中でだれてしまいがちですが、本書に関しては映画やドラマみたいに、シーンによって瞬時に視点が切り替わっていくので、そんなことが一度もありませんでした。
そのような演出の効果もあり、飽きたり中だるみすることなく、早いテンポで話が進んでいきます。
伊坂幸太郎らしくスピード感のあるストーリー展開なので、次へ次へとページをめくる手も止まらなくなるもの。
本書に関しては、ゆっくりじっくり読むというよりは、流れに乗って一度に読み上げた方がより面白いんじゃないかと個人的に思います。

単純に面白い!作品

本書は伊坂作品の3作品目と、初期の頃に発刊されていますが、実はきちんと読んだのはかなり後になってから。
映画化もされていて話題性もあったし、面白いんだろうなあと思ってはいたものの、銀行強盗という設定に食指が動かず避けていたのです。
ある時思い切って読んでみると、こんなに面白かったのか!とそれまで食わず嫌いをしていた自分に喝を入れたくなりました。
と同時に、他の伊坂作品と少し違う印象を受けたのです。
伊坂作品の多くは、現実味のない設定の中にも、現実と繋がるメッセージ性を割と分かりやすく含んでいるものが多いと感じますが、本書は良い意味でよりライトな感じ。
現実味があるような、ないような。
物語に意味があるような、ないような。
そんな、絶妙で独特なバランスを持っていると感じます。

バランスを保ちながら話を進め、かつユーモアたっぷりに描いている本書は、物語の中にぐいぐい引き込まれるというよりは、彼らの日常を少しだけ覗き見しているような感覚。
心にぐさっと刺さるような感動的な何かがあるというよりは、単純に面白い!と思える作品で、そこに難しい理屈はなくてもいいんじゃないかと思います。
銀行強盗をしくじる原因となった現金輸送車襲撃犯との攻防は、もっとシリアスで怖い場面も想像してしまいますが、彼らの場合はちょっと違って、何か厄介ごとに巻き込まれたようなドタバタ感を感じられます。
とはいえ本人達はいたって真剣なので、何だか愛らしくもありました。
気負わずサクッと読むことができるので、活字の世界に入り込めない人や小難しい小説が苦手な人、重たい内容を読みたくない時にもオススメ!
難しいことを考えずに、単純に面白い!と思える一作です。