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伊坂幸太郎「陽気なギャングの日常と襲撃」の感想。1作目のスピンオフ的な立ち位置!

     

14918176484_68f371717ephoto credit: Tom Simpson Dillinger Bank Robbery, Stag story illustration, July 1965 by Mort Künstler via photopin (license)

陽気なギャングシリーズの第二弾!!!

前作については、こちらで書いています。⇒伊坂幸太郎「陽気なギャングが地球を回す」の感想。個性際立つ4人の銀行強盗!

イメージとしては、それぞれのキャラクターの過去回想編?みたいな感じで、最初は進んでいき、徐々に絡み合ってくるといった感じですね。前作に比べると短編小説的な感じが強いです。伊坂幸太郎作品が好きな人ならピンとくるかもしれませんが、個別の話の中に当然のように伏線が貼られていて、関係ない系列の話なのにちゃんと絡まってくるところがさすがですね。

伏線、キャラクターの作り方、どれを取っても最高です。特に「陽気なギャングが地球を回す」が好きだなって思った人は確実に読んでおくべき作品でしょう!

陽気なギャングシリーズ第2作目

本書は『陽気なギャングが地球を回す』の続編。
前作を読まないと全く意味が分からない、というわけではありません。
しかし、個人的には前作を読まれてから本書を読むことをお勧めします。
なぜならこのシリーズの作風、雰囲気、主要な登場人物4人のキャラクターを把握していたら、より楽しめると思うから。
伊坂作品の中でも、単純に楽しい!と思える度が高く、銀行強盗犯4人のキャラクターの立ち具合や掛け合いが秀逸なんです。
そういった事前情報があったほうが、より本書の面白さが伝わるのではないかと思います。

本書はまず、4人それぞれが主役となる独立した短編4つから始まります。
成瀬「巨人に昇れば、巨人より遠くが見える」
響野「ガラスの家に住む者は、石を投げてはいけない」
雪子「卵を割らなければ、オムレツを作ることはできない」
久遠「毛を刈った羊には、神も風をやわらげる」
まるで格言のようなタイトル。
それぞれ作中に出てくるセリフですが、一言で言えば、粋。
伊坂幸太郎の、こういうちょっと遠回しに物事を比喩する言葉のチョイスの秀逸さは素晴らしいと思います。

4人それぞれの日常が1つの物語に絡み合う

短編はそれぞれの日常生活を覗き見ることができます。

成瀬は、部下の大久保と、市役所へ来所した男性が巻き込まれる人質事件、それがきっかけで気づいたある強盗事件に巻き込まれ、解決へと導きます。
勤務先である市役所での様子が見られて新鮮かつ、来所者への応対はまんまイメージ通り。
事件解決へ乗り出す時、ひっそりと「ロマンはどこだ」と呟くところにしびれます。
いつも冷静沈着で落ち着いている成瀬も、実は響野と同様なんだと思いました。
響野は、経営する喫茶店のお客さんが遭遇した不思議な体験の謎を追います。
同僚と飲みに行き、酔っ払って帰った明け方起きると、見知らぬ謎の女からの書き置き。
同僚に聞いても、飲みに行ったバーの店長に聞いても、そんな女いなかった、と。
真実はどうなのかを響野と一緒に探りますが、やはり響野がひたすらに喋っているところが、らしいところ。
雪子は派遣先の会社の女性と、ちょっと変わった出来事に関わります。
その女性がアルバイトをしているダイニングバーで、ある人気役者の舞台の2枚組チケットが女性宛てに置いてあったことから話は始まります。
そんなことをする人に心当たりがないその女性は、会社の都合もあって観に行くのを辞めようとしますが、ここですご腕ドライバー雪子の登場。
可愛らしさがあって、良い結末だと思いました。
作中で雪子が「強盗には、そういう、謎のチケットとか、見知らぬ男性との出会いとかはないから」としれっと言うあたり、いい味出しています。
久遠は偶然知り合った男性がいきなり殴られた事件を追いかけます。
ギャンブルのせいで多額の借金があり、追い詰められているその男性の正体などを突き止めたりと、淡々と飄々としながらも大活躍。

と、ここまで4人別々の物語だったのが、第2章からは1つの物語が始まります。
いつものように銀行強盗を行い、逃げた4人。
いつものように無事終えたかと思いきや、実は居合わせた客の中に、成瀬の部下である大久保の彼女であり、筒井ドラッグというやり手ドラッグストアの1人娘、筒井良子がいたことに気づきます。
そして実は、筒井良子は誘拐されていたことに気づくのです。
つまりはいつもの銀行強盗中に、社長令嬢誘拐事件が起こっていたということ。
4人は筒井良子奪還に向けて動き出します。

やはり際立つ4人のキャラクター

本シリーズの見所と言えば、個性豊かな4人のキャラクター。
いつも冷静沈着でどこか達観しているように見える、嘘見やぶりの天才、成瀬。
おしゃべり好きで嘘ばかり話すと仲間からも煙たがられる、演説の天才、響野。
精密な体内時計を持ち、常に落ち着いている、雪子。
4人の中で1番若く、動物好きであまり人間には興味がない、スリの天才久遠。

何一つ共通点がないように見える4人ですが、彼らの掛け合いは天下一品。
中でも響野と久遠のやりとりはまるでベテランコンビの漫才を見ているかのようです。
響野「というよりも、おまえ、彼女とかいるのか?」
久遠「教えてください、って響野さんが頭を下げるなら、教えてあげてもいいよ」
響野「教えなくていいです」
久遠「そういえば雪子さん、この間、祥子さんとどこかに舞台を観に行ったんでしょ?」
こんな感じで久遠が勝手に話題を変えるように、2人の会話は会話そのものが成り立っているのかいないのか怪しいところでもあり、各々が好き勝手喋っているのが面白いところ。
適当なことをペラペラ喋る響野と、それをあからさまに煙たがる久遠、という構図はいつ見ても飽きず、むしろ癖になり、読んでいると思わず本当に笑ってしまいそうになります。

読後の爽快感は健在

1作目「陽気なギャングが地球を回す」で感じた爽快感は2作目の本書も健在です。
1作目と同様、裏社会で暗躍する悪党対4人という構図。
純粋な悪党との対決という図は、ハラハラドキドキしながらも、やはり読んでいて手が止まらなくなります。
悪党らしい悪党と対決するのが、彼らのドタバタ劇の面白さに繋がっているのではと思います。
(もちろん彼ら4人も悪党ですが、純粋なというよりは、少し変わった悪党として位置付けられるのではないでしょうか。)
彼らも悪党のため100%の勧善懲悪ではないですが、いつものように銀行強盗をしている彼らが1作目同様トラブルに巻き込まれて、一生懸命対策を練る真剣な姿はなぜか嫌な気がしません。
陰ながらも見守ってしまう彼らの行動に、こちらも緊張感が走ります。
このように物語の世界にすっと溶け込めるからこそ、読後の爽快感はひとしお。
また、ハラハラドキドキから解放された安心感も味わうことができます。

エンタメ要素の強い「楽しい」作品

本書は当初短編集として作られる予定だったものを、途中で長編小説に切り替えたそう。
第1章の4人の短編のネタを、後の長編にバランスよく盛り込んでいます。
成瀬の部下、大久保の彼女である筒井良子はもちろん、他の登場人物も出てきたり。
初めはバラバラだった話が1つの物語に繋がっていく様子はまとまりがよく、読みやすい一作になっていると思います。
併せて伊坂幸太郎らしいスピード感のある展開で、一気に読み上げたくなるワクワク感も味わえます。

本書は、伊坂幸太郎の他作品、例えば「重力ピエロ」や「ゴールデンスランバー」、「アヒルと鴨のコインロッカー」のような、何か強いメッセージ性を感じられるものや大きなスケールのものとは一味違います。
大きな感動や衝撃からは少し離れたところにあるのが本書。
とにかく「楽しい」を感じることができます。
良い意味で何も考えずに読むことができて、でも読み終わったら何だか気分が高揚して少し元気が出ていました。
ストレートに何か特定のメッセージがある、というわけではないのですが、物語の物語の節々に表れる彼らの人間性や言葉に、ちょっぴり気持ちが満たされるのです。
スケールの大きな作品には大きいなりの良い部分があるように、単純に楽しい作品には日常生活を自然な形で潤してくれる、とても良いところがあります。

銀行強盗犯が主役という突拍子もない設定や、濃いキャラクター、響野と久遠の軽快でクスッと笑えるやりとり、スピード感のある展開など。
それらがうまく合わさって、エンタメ要素の強いとにかく「楽しい」感覚を味わえるのではないでしょうか。